鹿は珍しかった
わしが鉄砲撃ちをやるころには、美束に鹿なんか一匹もおらなんだ。いまは、鳴きかける。
香六のお宮さんの谷、宮の谷、いくらぼっても、そこは越さなんだ。谷山の谷から鹿をぼっても、天神谷から上に鹿は絶対来なかった。美束に鹿はおらなんだ。
いっぺん、どえらい大雪があって、熊探しかなんかで行ったんだ。そしたら、尾西の奥に珍しいものが死んどるというじゃろ、そこへ行ったら、滝つぼに鹿が落ち込んでまった。小さい鹿が。淵にあがれない。珍しいものが死んどると。滋賀県の方からきたんだ。大分昔じゃでな。わしが、35歳か40歳。
鹿が来たのは、最近ということはないけど、20年にもならん。角をまきつけては死ぬ。ここの川渕に。角があるやつが、余計に巻きつく。
猪でも鹿でも小糠いれておくと、おりにかかる。猪も来て仕方がなかった。うちの畑にも猪の小さいのがじゃがいも堀ったあとだったな。そこら中で、じゃがいもを食われた。そんなときにゴミを集めるときに、トラップがあった。それをもらって、畑にかけた。あくる朝、隣の人が、ししがハサミにかかってる。小さいやつがかかってあった。初若のじすけという猟師ともだちが。
小さなうりんぼうだったが、そこら中、ほって歩いて、こんな小さいのは兄弟で2つや3つはおる。しかし、その一つで終わりだった。おれがとったら、みんなが喜んでくれた。
豚コレラでよほど死んだんか。美束もおらんげだ。美束の田んぼで、ネットでも丈夫にしとかん。
いのししは、1年に5つも6つも子をうむ。鹿は1年おきに、1匹しか産まない。それが増えるというのは不思議でかなわん。
聞き書き 藤原 正身さん 大正7年7月7日生まれ 2020・9・20