熊を追う 藤原正身さん
名前はポチ。おっかあが柴犬。馬喰やってた尾西の人いちすけさんが、秋田へ牛を買いに行って秋田犬の子をもらってきたのでかけてもらった。
ポチは赤ん坊の時から変わっておったわ。足は長い。これは、大きいなるわと。
猟期になって、おっかも5つになるまで、山鳥と狸はようやった。鹿もぼうのは追った。
で、おっかと、ちんころを連れて熊を探しに行った。ちんころが足元でううううううう。おっかあは、上の方でよく熊の入る穴。足元におった、ちんころが、ふっと下の方に行き、鳴きかけた。雪をかっかっかと掘って鳴くんじゃ。
雪の中から匂いがしたんじゃな。上にいた親がどっと走った。犬どおしやで何かおるという。二人で掘りかけた。熊がおるやわと。棒で雪を掘って、そしたら、中におって。穴が深くて、撃った。おっかあとちんころ二匹で谷にすべっていた。熊は谷からよう上がらんで。そしたら、ちっとおもちゃにせなならんなと見とったら、おっかあと二人でくわえたり、離いたりしておった。それでかんかんに覚えてまった。
ぽちは熊は三千メーターぐらいのところでも知っておった。わしは、あきれてまった。
鼻をこう振って。風が吹くと匂いがする。何か風がくるなと、すると、だあだあだあだあと洞をずっと上がっていく、風が具合ようくると上がっていって、風がそれると、匂いが来ないようになる。すると、匂いがないので、あちこち歩いて、匂いのするところ、探しとるわ。飛び上がったりして。
あんなことをやるのはまず熊じゃで。犬の行く跡をくっついて。そしたら、風がふうと。 鳴きかけた。行ったら、大きな岩の下に、冬でも花あるげな青い枝が大きな岩の下に、でんとあった。これは熊がおるわ。寝床をつくろうとしたが、あんまり青いでつくらなんだなと。
そしたら、犬はもうすぐ横の方へ行って鳴きかけた。こんどはおる鳴き方だ。いったら、だんこうがあって、下は甕やで。だんこうしかないんや。これは上から行くしかないな、と上から行って。犬をぼって、頭出したら、頭撃とうと。なかなか頭を出さんじゃ。
しゃあないで、犬のうしろにちょっとしただんこうがあり、そこへ飛び降りた。そしたら、目の前に頭。ちょっと火をつけて撃ったら、終わりや。頭一発。
熊は頭撃ってないと安いの。商人は、胆のうがほとんどやで。弾の傷があるとあかんで、傷がある弾のあとの血をぬぐってみるわ。にごないか。苦ければ胆のうがあかん。ねぶってみるわ。
熊は雪のあるところは熊はよう滑る。熊は足が短くて横ひらたい。仰向けにしたら、熊はよう滑るんじゃ。下顎の牙をくくると抜けせんのや。
雪のあるうちは楽じゃ。雪がないところはひっぱたら毛が痛む。負わならん。負うものがないと藤を切って、藤で負うんじゃ。肩が痛い。