【安土 しょうゆがしを買いに】
「滋賀県の吉槻の向こうの七曲り峠のところに炭を買うところがあった。鍛冶屋って言って、そこそこに醤油屋があって、味噌、醤油を買ってきた。ところが、本物の味噌じゃないんです。しぼりかす。醤油かすを。
親父らの話によると美束からいつも買いに行ったんですね。何月何日、醤油かすが何貫出るよと。そういうハガキが来たそうです。すると隣中に聞いて、まとめて、買いに行った。
よぼいあって、早朝1時、2時にでかけるのを覚えとります。寝とって、隣のおじいさんがよぼいに来たのを覚えております。「行こか」って、寝床の中で聞いた。
何人かで行った。昔は入れ物がないから、藁のカマス。両端を縫って入れ物にして醤油かすを入れて持ってきた。
この間、醸造元に行ってみた。いまはやってないけど、醸造屋のおばあさんがいらっしゃって、嫁入りしたてのころ、揖斐の方からかすを買いに来てくれたのを覚えてとります、と。かくしょうというたまりやだけど。
醤油屋の近くに鍛冶屋っていう部落がある。そこで農機具をつくっていて、そこへ、美束から炭を背負って行った。昭和の初めか大正末期のころだけど、美束の炭がやわらく鍛冶に適していたということで。こんばずみというよね。生木を入れて、泥をかぶして、夕方にはもってきた。」(80代 男性)